新聞

専門学生時代、東京で一人暮らししてたんですよ。築年数2桁の2階建てボロアパートで、夜中いつも天井から小動物が走る音が聞こえてくる様なとこだったんですけどね。

住みだした当初から新聞の勧誘が頻繁に来る訳ですよ。近くに読売新聞の集配所って言うの?そんな感じのがあるみたいで余計来てるんじゃねーかってくらい。最初の頃は、インターホンも無いし毎回ドア開けて対応してたんですけど、だんだん慣れてくるとドア開けずに「どちら様ですか?」「読売新聞ですけど」「あ、読まないんでいらないです」みたいな感じで、軽くあしらうようになったんですね。

それでもしつこく来るもんだから、次来た時はドア開けてきっぱり言ってやろうと思ったんですよ。取るつもりないんで、もう来ないでくれと。で、その時が来ましたよ。トントンと。読売新聞ですと。

よっしゃ、言ってやるぞと思ってガバッとドア開けたら、目の前にいる人が明らかにヤクザなんですよ。しかも2人組。派手めのスーツ着た厳ついおっさんの後ろに、変なアロハ着た「チンピラ」という言葉がしくりくる東南アジア系の外人がいるんですよ。

え?え?え?って思ってたら「おぅ、あんちゃん。読売新聞だけども」って。嘘つけ!勧誘員が客をあんちゃんとは呼ばねぇだろ!と思ってドア閉めようと思ったんですけど、玄関に入り込んだ革靴と柱を握る手が無言で訴えてる訳ですよ。「閉めたらどうなるか分かってんだろうな」と。3ヶ月だけでいいから取ってくんね〜かな〜」ってフレンドリーに話しかけてくるんですけど、後ろのチンピラがずっとメンチきってますからね。

でも、こっちは断る気満々で出てる訳ですから、そう簡単にはいと言うつもりはない訳で、ずっといらないですって言い続けてたんですよ。そしたらだんだん口調変わってきて、「こんだけ頼んでるのに駄目だっつーのか!?あぁ!?」とか言うの。百歩譲って恐喝ですよ。ほんで、前のおっさんが脅してくると、すかさず後ろのチンピラが片言の日本語で「ナンダテメー」って。なかなか無いですよ。笑いこらえながら脅されるってこと。何このコンビ。飴とムチ?

脅されるのは怖いんですけど、その愉快なチンピラのおかげで気が楽だったんで若干強気で対応してたら、おっさんがマジで切れてきましてね。しまいにゃ表出ろコノヤロー!って言うの。仮にも新聞の勧誘員ですよ。何で表出なきゃいけないんですかって言ったら、流石に言い過ぎたと思ったんでしょうね。「お、おぉ・・・」つって、こっちが優勢みたいな感じになったんですよ。お、これはいけるぞ!と思ったんですけど、そう簡単にはいきませんわ。何やったって帰る気ゼロ。

もうこれは無理だなと観念して、3ヶ月だけ取る事にしたんです。そしたら案の定、態度翻して「悪かったな〜」なんつって上機嫌で帰りましてね。ま、チンピラは最後までメンチ切ってましたけど。

で、その新聞は8月〜10月の3ヶ月ってことだったんですね。でも8月の頭、夏休みなんで1週間ほど実家帰ってたんですよ。で、部屋に戻ってきたら郵便受けのとこに5日分くらいの新聞が溜まってて。あの二人組が来たのが6月だったんで、すっかり忘れてたんですよね。8月から始まるってのを。そういや新聞取るんだったな〜と。あの時は嫌な思いしたけど、いざ新聞が来てみるとちょっと楽しみだったりするんですよね。新聞読む習慣つけようかな〜なんつって。

で、翌日朝起きて新聞来てるか見たらないんですよ。次の日も、その次の日も。結局、それ以降新聞全く来なかったんですよ。多分、集配所の方で今月から始まりますよ〜って電話をしたんだけど、私が出ない。配達しても溜まる一方で人がいる気配がない。ということで、配達打ち切ったと思うんですよ。まだ金払ってなかったんで、向こうにしてみりゃタダで5日分配達させられた訳ですよね。

ま、あの二人組を思い出して、ザマーミロとは思ったんですけど、こっちとしてはもう新聞読む気満々なわけで、口にくわえたゴムを引っ張るだけ引っ張られて普通に戻されたようなもんですよ。え? バッチーン! ってのないの? バッチーン! て、って感じ。踏んだり蹴ったりとはこの事かと。

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