笑い男事件レポート

笑い男事件とは、テレビアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の作中で語られる事件ですが、非常に複雑な事件で、何回見てもややこしいので、自分のために内容をまとめてみました。

以下は作品中で語られる情報を元に、個人的推測も含めて構成した笑い男事件の全容です。自分用に書いたので、分かりにくくても悪しからず。

2019年:全ての始まり

マイクロマシン(MM)によって脳をデジタルデバイス化する電脳技術が一般的になりだした頃、電脳化した部位が硬化する謎の病気「電脳硬化症」が発見され話題となる。

発症後の根本的治療法が見つかっていなかったため21世紀の不治の病と言われていたが、やがて医学博士の村井千歳によって特効薬「村井ワクチン」が開発される。しかし村井ワクチンは偶然の産物であり、何故効くのかは不明であった。

当時の医師会はMM治療法の推進派が多数を占めており、村井ワクチンを容認することでMMの開発・発展に影響が出るとの懸念があった。さらには厚生労働省中央薬事審議会理事である今来栖尚の、村井に先を越された事に対する嫉妬心も重なって、表向きは効果が不明である事を理由に村井ワクチンは不認可とされてしまう。

※今来栖は、このためにわざわざ不認可の判を作らせている。

その代わりに薬事審議会はセラノゲノミクス社のMM治療法を認可するが、これは当時たまたま申請が出されていたからであり、このMMに治療効果は殆どない。その後、今来栖が理事を務めるマイクロマシンインダストリアル社のMMも治療効果が殆どないにも関わらず認可されているが、同社はこれによって1兆円程の利益を上げている。

※セラノ社のMMは申請より3ヶ月、MMインダストリアル社のは1ヶ月で認可を得ている。どちらも“異例の早さ”とのこと。

尚、当時の厚生労働大臣である薬島は元海上幕僚長であり、かつて軍医だった今来栖とは当時から最も親密なゴルフ仲間である。このため、MM治療法認可の件に薬島が関わっていた可能性は高い。おそらく認可の裏には、薬島の圧力があったのだろう。

※薬島は多額の支度金を持って政界入りしているが、支度金の出所を巡り機密費横領で薬島を告発した経理担当官は殺されている。

2021年

2月。村井博士死去。享年68歳。

4月。不認可になったはずの村井ワクチンが突然、特定指定者有償実験薬として認可される。これにより村井ワクチンは、薬事審議会の認可した人にだけ有償で接種されるようになるが、これは一般に非公開であり、表向き使用者はいないことになっている。

今来栖も電脳硬化症であり、このワクチンの接種者であるが、おそらくは今来栖が自分のために認可したというわけではなく、単純に金儲けのための認可だったのではないだろうか。

※2030年の段階で、いつから接種しているのかという質問に今来栖は「随分前から」と答えているが、具体的な日付は不明。

瀬良野宛の脅迫

この年、セラノゲノミクス社社長であるアーネスト瀬良野は、MM治療法の無効性と村井ワクチンの事をネタにした脅迫メールを受けている。3年後に起きる瀬良野誘拐事件は、このメールが切っ掛けになっており、このメールの作者こそ笑い男のオリジナルとも言える人物である。しかしながら作者は最後まで不明のままだ。

2024年:第1次笑い男事件

アオイという青年がネット徘徊中に、3年前の瀬良野脅迫メールを偶然見つける。MM医療の裏側に隠された真実を知ったアオイは正義感にかられ、真実を白日の下に晒すことを決意。瀬良野の電脳をハックして誘拐すると、全てを公開することを要求する。

この際、アオイは事前に何度か犯行予告を行っているが、瀬良野側がまともに取り合わなかったため実力行使に出たものと思われる。

2月3日土曜日、誘拐から2日目。要求に応じようとしない瀬良野に腹を立てたアオイは、路上で生中継をしていたテレビカメラの前で瀬良野に銃を突きつけ、今この場で真実を語る事を要求。しかし計画は失敗に終わり、アオイは姿を消すことになる。

この犯行の際、アオイは顔を隠すためにテレビカメラや周囲にいた人々、監視カメラまでもハッキングし、自分の顔が写る箇所全てに笑い顔のマークをリアルタイムで上書きしていた事から「笑い男」と呼ばれるようになる。これは周囲の人間が言い出した名称であって、アオイ自身は自ら笑い男と名乗った事は一度もない。

※電脳化していない浮浪者2人が逃走中のアオイの顔を見ていたが、記憶が曖昧だったため、捜査の役には立たなかった。

企業脅迫事件への発展

瀬良野はアオイから解放された後、誘拐直後会社に対して巨額の身代金要求(現金100億と金塊100kg)があった事を知る。警察は笑い男(アオイ)を身代金誘拐犯と断定し捜査を開始する。瀬良野はアオイと対峙したときの印象から、身代金を要求したのはアオイではないと考えたが、余計な証言からMM治療の裏側がバレるのを恐れ、警察の尋問には身に覚えがないと答えるにとどめた。

その後犯人はMM製造ラインに殺人ウィルスを混入するという手口で、セラノ社を引き続き脅迫。MM製造が滞り、セラノ社の株価が大幅に下がり始めると、まるでそれが目的であったかの様に脅迫は止んだ。しかし犯行はこれで終わらず、犯人は同様の手口を使ってMM製造メーカー6社を次々脅迫。各社の株価は、セラノ社同様急落する。

犯行が3ヶ月程続いた後、被害メーカーに対して政府が公的資金導入を決定し、被害メーカーの株価は回復する。犯人はこの際、株の空売り等で多額の利益を上げたものと思われる。

株価が戻り始めた頃、瀬良野のもとに薬島厚生大臣の私設後援会会員を名乗る男が訪れ、企業脅迫を止める事が出来る人物を知っているから事態収束の暁には献金して欲しいと申し出る。献金の金額は、投入された公的資金の額と脅迫で要求された額を合わせたものであった。

つまり身代金要求をはじめとする一連の企業脅迫は、薬島を中心とした組織による犯行だったということだ。

企業脅迫事件の裏側

この計画がいつ頃からあったものなのかは定かではないが、実際はアオイの犯行を切っ掛けとして産まれたものではないだろうか。

もし以前からあった計画だとしたらアオイの存在と関係なく実行に移していたはずだ。用意していたところに、たまたまアオイの犯行があったというのも都合がよすぎる。

おそらくは、アオイの犯行予告を知った警察の関係者が薬島に報告。犯行予告の内容から、誘拐犯の目的が身代金ではなくMM治療の真相公開だと分かっていたために、大胆にも実行犯に成り済まして身代金を要求。その後、瀬良野解放によって身代金の入手が不可能になると、殺人ウィルス混入による脅迫という方法に切り替えた、というところだろう。

誘拐直後の動きの速さから、犯行予告があったことは知っていたとは思うが、MM治療の真相が公になっては困るはずの薬島らが、これを阻止しようとしなかったのは、瀬良野なら誘拐されたところで口を割らないと踏んでいたからだろう。でなければその後の脅迫などしないはずだ。

いずれにしてもMM治療法の不正認可の一件以来、セラノ社は目を付けられていた可能性はある。もしかすると、続けて脅迫された他の6社もセラノ同様に弱みを握られていたのかもしれない。

笑い男事件の影響

犯罪に似つかわしく無い笑い男のポップなマークは、一部のサブカルチャーや若者に人気となった。また、社会の裏を暴こうとする笑い男(アオイ)の行動は共感を呼び、ハッカーとしての一流の手腕や、犯行が生放送で中継されたという話題性もあって、笑い男は若者を中心に英雄視されるようになる。

その後は次々と起こる企業脅迫に加え、机を並べてビルの屋上に笑い男のマークを描いたり、庭師ロボットを操ってミステリーサークルのように笑い男のマークを描くなど、連鎖的に多数の模倣犯が出現。笑い男は劇場型犯罪として人々の注目を集め社会現象となった。

公的資金導入決定後、笑い男は事件の収束宣言を出して謎に包まれたまま姿を消すことになるが、社会の裏を暴こうとする英雄、そして一流のハッカーとして、信者とも呼べるフリークの存在を多く残すことになる。

尚、笑い男のマークはポールというデザイナーの作品だと言われているが、アオイと瀬良野が行ったカフェ「STAR CHILD COFFEE」のマークと酷似しているため、アオイの創作である可能性もある。

マークの周囲に書かれている文字は「I thought what I’d do was, I’d pretend I was one of those deaf-mutes.(耳と目を閉じ、口をつぐんだ人間になろうと考えたんだ)」。これはJ.D.サリンジャーの作品「ライ麦畑でつかまえて」の中の一節であるが、後にアオイがこの作品の主人公であるホールデンの言葉を引用しただけと言っている事から、仮にマークの作者がポールだとしても、この文字に関してはアオイが付け加えたものだろう。

※アオイの赤い帽子や「くそったれの……」というような口調は、多分ホールデンのマネ。

2030年:第2次笑い男事件

笑い男事件から6年。警視庁の笑い男事件特捜部捜査員ヤマグチは、上層部の不穏な動きを察知。かつての同僚であった公安9課の捜査員トグサに相談を持ちかけるが、トグサに会う直前に事故死する。

調査に乗り出したトグサは、ヤマグチが生前残したファイルから、警視庁の上層部が捜査員に対して違法にインターセプターを仕掛けていた事実を突き止める。

※インターセプター(視聴覚素子)。仕掛けた人間の視覚情報を傍受することができるMM。

インターセプターが仕掛けられた理由は、捜査情報を集めるためというのが表向きの理由だが、納入元がセラノゲノミクス社であることから、警視庁とセラノの間に癒着があった為と思われる。警視総監の大堂義一は、見返りとしてセラノの本社があるオランダに別荘を用意させている。

また、瀬良野は6年前の事件後、身柄の保護を名目に警察の監視状態にあるが、瀬良野の警護についている者にもインターセプターが仕掛けられていることから、瀬良野を監視するという目的もあったのではないだろうか。

総監暗殺予告

警視庁に揺さぶりをかけるため、公安9課捜査員の草薙素子はこの情報をマスコミにリーク。それを受けた警視庁は、大堂総監自ら釈明会見を開くが、その場に同席していた刑事部長が笑い男と思われる人物にゴーストハックされる。

※ゴーストハック=電脳をハッキングされ、意のままに操られること。

刑事部長の口を借りた犯人は総監に対し、真実を語らなければ「あなたをこの舞台から消去しなくちゃならい」と、暗殺を示唆する発言をする。

総監暗殺予告の容疑者として9課が目をつけたのは、警視庁の特捜が笑い男事件の容疑者として目をつけていた人物、ナナオA。捜査の結果、確かにナナオが笑い男であることを裏付けるような証言が多数出てきたが、これらを分析した結果、全て巧妙に作られた偽の記憶である事が発覚。この情報操作は、厚生労働省より発行された正規の書類により実行されていることから、薬島が絡んでいると思われる。

※3年前、厚生労働大臣だった薬島はこの時、連合与党幹事長になっている。

総監暗殺未遂事件

暗殺予告の当日、大堂の警備主任がナナオの作った遅効性分割型ウィルスに感染し大堂に襲いかかるが、9課がこれを阻止。直後に警備主任の電脳を素子が調べた際にそれを覗いていた人物がいるが、これはアオイだろう。

素子が攻性防壁に身代わりを焼かれたとき、パズは「トラップ付きウィルス?」と言っているが、後にラッフィングマンルームでベビールースが「あの攻性防壁は警察のものとは違う。あんなものは見た事がない」と言っていることから、これはアオイのものと思われる。

事件発生直後、ナナオは警視庁の深見によって射殺されている。これはおそらく口封じのためであり、笑い男事件は表向き容疑者死亡で幕を閉じることになる。

総監暗殺未遂事件の実行犯はナナオであり、9課の荒巻課長は一連の事件を「警視庁による自作自演の茶番」としている。会見中の犯行予告によってインターセプターの件がうやむやになったことなどもあって、課長はこう推理したのだろうけど、暗殺予告はナナオ曰く「俺じゃあない」とのこと。

後にアオイ自身が素子に対して「これからぼくはどうなるんですか? 誘拐罪で逮捕? 同時多発テロ教唆の罪かな」と言っていることから、刑事部長をゴーストハックした犯人はアオイだろう。

実際、ナナオの残したサーバから見つかったいくつかの犯行計画のなかに、今回の総監暗殺計画はなかった。つまりナナオを笑い男に仕立てるために複数のシナリオを用意していたが、アオイの予告を利用して総監暗殺のシナリオを急遽立案したということではないだろうか。

※アオイは「舞台から消去する」と言ったのであり、暗殺するとは言ってない。これを暗殺予告と受け止めて警視庁が利用したということだろう。

暗殺実行の前にナナオは薬島と思われる人物と電話しているが、犯行予告を行ったのがナナオだと思っているような節があることから、この計画はあくまで警察主導によるものであり、薬島は詳細について知らなかったのだろう。しかし、偽物を仕立て上げて笑い男事件に幕を引かせるよう大堂に指示したのは薬島である可能性はある。

事件後、大堂は引退することとなる。病室にて薬島と思われる人物と電話で話してる際「この際関係のある者は一線から退いた方が……」という発言があるが、これは「企業脅迫の件に関係のあるものは」ということだろう。つまり大堂も企業脅迫に関わっていたということで、警察内部にも関係者は多数居るということだ。

スタンド・アローン・コンプレックス

ナナオのウィルスによる暗殺未遂が起きた際、連鎖的に暗殺を企てる者が発生。最終的に事件はナナオの作ったウィルスによる同時多発電脳汚染として処理されることになるが、実際にはそのいずれもがナナオのウィルスとは無関係であった。彼らは犯行予告に啓発されるなどして犯行に及んだものであり、これは後に素子が「スタンド・アローン・コンプレックス(S.A.C.)」と名付ける現象である。

「スタンドアローン」は「孤立」、「コンプレックス」は「複合」を意味する。つまりS.A.C.とは、個人の意識がネットなどを通じて共有され、集団の意識へと変化した結果、多くの模倣者を生み出す現象である。

S.A.C. は“新作を発表しないことで、その存在を誇張されてしまう作家の様”に、オリジナルの存在が消失することで媒介となり広がっていき発生する。

※アオイ「全ての情報は共有し並列化した時点で単一性を喪失し、動機なき他者の無意識に、あるいは動機ある他者の意識に内包される」

アオイは瀬良野誘拐の犯行動機について「僕だけがたまたま知り得た情報の確認と伝播を自身の使命と錯覚し奔走した」と語っているが、これもやはりS.A.C.である。また、アオイは「僕自身、電脳化の権化みたいな人間だから、少なからず電脳硬化症に対する恐怖みたいなものがあったのかもしれない」と語っているため、MM医療の裏側を暴こうという考えに余計共感しやすかったのだろう。

この作品の世界は、今よりも更に発達したネット社会であり、情報の共有・並列化が当たり前のように起きている。つまりS.A.C.は、このような社会が作り出した新しい現象といえる。アオイはこれを「絶望の始まりに思えてしょうがない」と言っているが、素子はこれに対し、情報の並列化の果てに個を取り戻す可能性は「好奇心」ではないかと答えている。これは情報並列化の果てに個性を獲得したタチコマを見てのこと。

アオイは素子の回答に「なるほど、それには僕も気づかなかったな。僕の脳みそは既に硬化し始めてる」と返しているが、これは柔軟な思考ができなくなった事を硬化症に例えたジョークだろう。

笑い男、再び

法務省管轄の授産施設内部より、厚生労働省のデータベースに対して大規模なハッキングが行われた。これは施設に入所しているアオイの仕業だが、実際には他の入所者を利用したか、共謀した可能性が高い。

トグサは捜査のため授産施設に潜入。詳しく調べようとした矢先、所長に潜入がばれてアームスーツを着た職員と所長に襲われるが、これはアオイの作り出した疑似記憶である。

これ以外にもトグサの入所後すぐ、ブランコがひとりでに動き出すなどの不思議な描写もあり、施設内での記憶全てに第三者の手が加えられた可能性もある。

この後アオイは痕跡を残さず施設から姿を消す。トグサはアオイの存在を証明するために似顔絵を描くが、出来上がったのは笑い男のマークであった。

※ちなみに授産施設の入所者オンバと、チャット「ラッフィングマンルーム」のマスターオンバは同一人物

今来栖

授産施設に居たアオイこそが本物の笑い男だと感じたトグサは、彼の狙いが容易に改ざんできる電子情報ではなく、物理的な紙媒体だと睨んで調査を開始。厚生省の書類倉庫から村井ワクチン接種者リストが無くなっている事を突き止める。これはアオイが清掃員をゴーストハックして盗み出したものである。

このリストのコピーが今来栖の名義で「ひまわりの会(大手企業や政府機関に対する個人レベルからの告発や裁判をサポートしているNPO団体)」に届けられる。本当の送り主は、もちろんアオイであり、ひまわりの会がこれを元に訴訟を起こすなどして、事実が明るみに出る事を期待してやったと思われる。

その後トグサがひまわりの会事務所を訪れた際、リストにある今来栖の名前を確認している。しかし麻薬取締局(麻取)強制介入班の襲撃を受け、その場に居合わせた職員は全員殺害。トグサも重傷を負う。

麻取の局長は新美であり、強制介入班に指示をしたのも新美であるが、麻取は厚生省下の組織であり、新美の上は当然薬島だろう。

トグサの記憶から今来栖の存在を知った9課は、今来栖確保に乗り出す。

接種者リストの件で新美から問いつめられ、裏切り者としての疑いをかけられた今来栖は命の危険を感じ、ホテルに身を隠していた。

アオイはホテルのボーイをゴーストハックして今来栖の前に姿を現すと、真実の公表を迫った。アオイが姿を消した後、今来栖は薬島に助けを求め電話をするが、薬島は新美を通じて今来栖の抹殺を指示する。

今来栖はアオイから聞かされるまで企業テロがアオイの犯行ではないことを知らなかった。つまりその一件には関わっていなかったという事であり、薬島にとっては所詮捨て駒程度の存在だったのかもしれない。

今来栖の電話を傍受して居場所を突き止めた9課は、すぐさま確保に向かうが、そこで麻取の強制介入班とかち合う。戦闘の結果、素子は義体交換を余儀なくされる程のダメージを負い、さらには一瞬の隙をつかれ今来栖も殺害されてしまう。

※殺害したのは、後に強制介入班の残党として登場する3人。

この時、アオイはバトーに接触し、接種者リストのオリジナルを渡している。

局長の新美は逮捕されるが、留置所内において電脳自殺を図り、言語野と記憶野の一部が意味消失。これによって彼の証言には司法能力が無くなってしまう。

アオイとの接触

義体交換のため病院に行った素子は、医師に成り済ました強制介入班の残党によって命を狙われる。寸でのところを突如現れたアオイによって助けられるが、アオイは交換条件として「これから僕が仕出かす最後の挑戦を黙ってみててほしい」と申し出る。さらに、もし失敗したときは代わりにこの事実を公表して欲しいと、笑い男事件の真相である自身の記憶を素子に渡しその場を去る。

しかしアオイは、結局この後何もしていない。後の本人の証言によると、素子と記憶を共有した時点で「後はあなたがうまくやってくれるだろう」と思い「全てが終わってしまった」と感じたからとのこと。

※アオイは素子に対して「会うのは3度目」と言ったが、1度目は総監暗殺未遂時に警備の電脳を覗いたときで、2度目はチャットルームから強制転送されたとき。

素子はアオイの情報を利用して笑い男(アオイ)に成り済まし、6年前のアオイと同じ手口で瀬良野を誘拐。瀬良野から薬島との関係を聞き出す事に成功する。この時の素子と瀬良野が一緒にいる様子が何者かによって盗撮され、ニュースで流されることとなる。

瀬良野誘拐の直後、荒巻が素子に対して瀬良野の捜索を指示するが、おそらくこの時点では素子の行動を知らなかったのだろう。他のメンバーも同様だと思うが、バトーはアオイに成り済ました素子を迎えにいっているので、彼だけは最初から知っていたと思われる。バトーが瀬良野の警備担当に対してインターセプターの種明かしをしたのは、笑い男が再び誘拐したと思わせるためではないか。

以上の事から、この計画を知っていたのは素子とバトーだけだと思われ、事前に情報が漏れた可能性は低い。にもかかわらず素子の行動がバレて、瀬良野との姿が撮影されたということは、本物の笑い男の登場を予期していた薬島たちが、瀬良野を注意深く監視していたからではないか。

本物が現れたと思って追跡したら、それが9課だった。そして、それをマスコミにリークした。

9課襲撃

笑い男に化けた素子の姿がテレビで流されると、瀬良野誘拐事件への関与の可能性や、過去の武力活動をネタに、9課は危険な武力集団として報道される。

荒巻は捜査によって明らかとなった笑い男事件の真実を総理に報告するが、総理は“衆院選前の大事な時期”であるため薬島の更迭を渋る。荒巻さえいれば9課は再建できると考える総理は特殊部隊法案の施行を決定。これは軍の導入も含む法案であり、法案の施行は、すなわち9課壊滅を意味する。特殊部隊法案施行後も荒巻だけは逮捕されることなく、後の報道にも名前が出てきていないが、これは9課再建のためであろう。

特殊部隊規制法案はすぐさま施行され、間髪入れずに軍の出動が決定。9課は海自の非公式特殊部隊「海坊主」の襲撃を受け壊滅する。これは海自と繋がりのある薬島の手引きだろう。一度は逃げ出したメンバーだが、海坊主の追跡により全員逮捕される。尚、逮捕の直前、イシカワとパズは薬島に関する情報のリークに成功している。これが週刊誌等で報道され、後の薬島逮捕に向けての世論の流れを作ることになる。

バトーが襲撃を受けた際、9課メンバーの生け捕り命令が出ていたことが伺えるが、素子にだけは狙撃命令が下っている。おそらく中心人物だからだと思われるが、詳しい理由は分からない。「委員会から射殺命令が出ている」という発言があるが、この委員会というのも具体的には不明。

荒巻は9課メンバーを守るために法務省の人間(法務大臣?)と会い、笑い男事件の捜査資料と思われるものを渡して「委員会を説得できるか?」と交渉しているが、これは素子に射殺命令をだしたという委員会のことだろう。結果的に逮捕されたメンバーが9課に戻っているところを見ると、一応交渉はうまくいったということだとは思うが、素子の件に関しては間に合わなかった、もしくはその点だけは説得できなかったということか。

※総理との面会後、荒巻は総務省に行こうとしてることから、本来ならそこで交渉する予定だったのだろう。

荒巻は規制法案施行決定後、素子に対して「死ぬな」と命令している。これが、このような自体を見越して素子個人に対してそう告げたのかどうかは分からない。しかし、素子はリモート義体を使うことで、この狙撃を回避していることから、素子自身はこういう事態を想定していたということだろう。そして素子が想定していたということは、荒巻も同様な考えであった可能性がある。

※素子のリモート義体が狙撃されたあと手がアップになるのは、いつもつけてる腕時計がないからこれは偽物ですよ、という意味。

薬島逮捕、そして

9課壊滅から3ヶ月。トグサは表向き務めていることになっていた警備会社から、無期限自宅待機を命じられ、何もできない日々を過ごしていた。

検察による一斉捜査のニュースを見たトグサは、9課の手柄が横取りされたことに憤りを感じていた。「検察の手柄によって厚生疑獄が暴かれたとしても薬島は議員辞職すらしないかもしれない」と思ったトグサは、銃を手に取り薬島の居る党本部へと向かうが、犯行前にバトーに止められる。

トグサの行動に至る経緯は「僕だけがたまたま知り得た情報の確認と伝播を自身の使命と錯覚し奔走した」というアオイの犯行動機そのままであり、これはトグサが笑い男化したと言える。

その後、薬島の事件は裁判へと進展するが、初公判当日に瀬良野が殺害される。実行したのはナナオを殺害した深見だが、指示をしたのはセラノ社との癒着がバレては困る警視庁上層部の者ではないか。瀬良野の言葉を借りると「世の中に潜む悪は、我々が想像しているレベルを超えてそこに居る」ということだろう。

※劇中で瀬良野が死亡した直接的描写はないが、神山監督自ら執筆した小説版「攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY」 (2011年・講談社)によると“車に仕掛けられた爆発物によって暗殺されてしまうのであった……。”とある。

薬島逮捕後、荒巻はアオイを9課メンバーとしてスカウトするが、「野球が下手ですから」と断られる。この時の素子と荒巻がアオイと会話するシーンは構図が不自然で、素子や荒巻とアオイが一緒にフレームインすることがない。2人が去る時も、座っていたはずのアオイは居なくなっているが、これはアオイが2人の目を盗んだとか疑似記憶だとか言う訳ではなく、9課とアオイとの間に一線を置くという演出上の効果だと思う。

“笑い男事件レポート” への5件の返信

  1. アニメだけでは理解できなかった笑い男事件がこの記事を読ませていただいてよく理解できましたありがとうございます。

  2. 非常にわかりやすい時系列に沿った解説で素敵です。
    より攻殻の世界を楽しめた気がします。お疲れ様です。

  3. 自分で理解したつもりでしたが、見落としていた部分が多々あったことに気付かされました。素敵な解説ありがとうございます。

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