UDO MUSIC FESTIVAL 2006

UDO MUSIC FESTIVALの2日目を迎える朝は、どんよりとした曇り空。今年1発目のフェス当日だというのに、テンションは上がらない。フェスに行くという気分にもなれず、大した用意もせずに車に乗り込み、危うくチケットを待たず家を出そうになる。

会場の富士スピードウェイまで、高速で約1時間。混雑を避けるため、開場の7時に合わせて6時頃家を出た。

行程の半分を過ぎたあたりから霧が掛かりだし、遂には雨が降り出した。雨はさほど強くはなかったけど、霧がどんどん濃くなっていき、高速を下りた時には2台先の車が殆ど見えなかった。

本当にフェスがあるんだろうか。これは夢なんじゃなかろうか。そんな気にさせる霧だった。

事の発端

今年は、早い時期から各地の夏フェス開催の情報が飛び込んでいた。そんな中、2004年にTHE ROCK ODYSSEYでTHE WHOを初来日させたウドー音楽事務所が、再びフェスの開催を発表した。

UDO MUSIC FESTIVAL 2006。俗にウドーストックと言われることもあるこのフェスは、7月22日(土)・23(日)、富士スピードウェイと泉大津フェニックスという微妙な場所で同時開催。出演者の第1弾発表はサンタナ、ジェフ・ベック、KISS、ソフト、クリック・ファイヴ。

ロックオデッセイでは、ザ・フーの他にも大物を呼ぶも、レッチリの後のトリが永ちゃんだったり、ブラック・アイド・ピーズとレニー・クラヴィッツの間にラルク アン シエルを挟んでみたり。その理解しがたいセンスで結果は微妙なものだったらしい。今回もそれを繰り返そうとしているのだろうか? バカなんだろうか?

個人的には、第1弾発表で早くも心配が頭をよぎらせる内容だったけど、第3弾の発表でその心配はどこかへ吹っ飛ぶ事になる。

AUDIOSLAVEの出演が決定。前回のサマソニの出演キャンセルで、かなりがっかりさせられたけど遂に来た!ということで参戦を即決。チケット代は1日券15,000円とハッキリ言って高いけど、オーディオスレイヴが見れるなら文句はない。

その後発表された出演者は、やはり微妙な取りそろえ方で、私の中では「オーディオスレイヴのついで」の域を超えなかった。ネットではこのフェス自体酷評されていたりしたけど、私はオーディオズレイヴさえ見れればそれでいいのだ。

5月13日土曜日。チケット一般発売日。早速電話を掛け、彼らが出演する富士の2日目のチケットと駐車券を予約。火曜までに指定口座に金を振り込めというので、月曜日、会社の昼休みに近くのATMで入金。上がるテンション!下がる預金残高!

意気揚々と会社に戻り、興奮押さえきれずにウドーの公式サイトを見ると、そこには信じられない光景があった。土曜までは確実にあったオーディオズレイヴの名前がどこにもないのだ。奇跡的タイミングでの出演キャンセル! 昼休みのオフィスで1人頭を掻きむしるヒヨスケ! 下がる預金残高!

2年連続来日キャンセル。いくらファンでも、この仕打ちは腹が立つ。が、フェスの出演者変更なんてことはよくある話なので、残念だがこれは仕方のない事。問題はウドーの対応である。

実はこの時点で出演キャンセルのアナウンスはなく、ただ名前が消されていただけなのだ。しかも出演者一覧からだけでなく、過去ログにあった「オーディオスレイヴの出演が決定しました」という部分まで消されていた。幼稚な隠蔽工作である。

いても立ってもいられず、普段行かない2ちゃんねるにも行って調べたところ、嘘か真かチケット一般発売の前にキャンセルはほぼ決まっていたらしい。つまりチケットの売り上げが落ちないように、チケット発売後に名前を消したという可能性がある。これはもはや詐欺だ。

結局、レコーディング遅延のためキャンセルとのアナウンスがあったのは、名前が消えてから1週間後のこと。このフェスが、私の中で一気に虚しいものに変わった。

僻地の果てで

2006年7月23日(日)

高速後の有料道路を下りてすぐ、軽く道に迷う。プリントアウトしておいた地図を忘れたため、曖昧な記憶で適当に曲がってみたけど、どうも違う気がして一旦停車。辺りを見回すと、今来た方向に「富士スピードウェイ ←左折6km」との看板発見。助かったと思って、その看板に従って1分ほど走ると再び案内板発見。「富士スピードウェイ ↑11km」。なぜ増える!

一抹の不安を抱えつつ看板に従いひたすら直進し、予定より少し遅い7時半過ぎに到着。ゲートでチケットを渡し、リストバンドとパンフレットをもらう。このパンフレットにタイムテーブルや開場内地図が載っているんだけど、なぜかA6サイズの冊子もので、しかも16ページ中8ページが広告。こんなもの1日持ち歩けというのだろうか? 無駄に客の荷物を増やして楽しいのだろうか? バカなんだろうか?

駐車場に車を止めるころには雨が止んでいた。開演の10時半までは2時間以上あったので車内で仮眠を取っていたんだけど、ウンコがしたくなったので9時頃車を出て会場へ行ってみることに。

ウンコを済ませステージの方へ歩いて行くと、入場待ちの行列が出来ていた。この施設の会場は7時だけど、ステージエリアの開場はまだらしい。そんな話は全く聞いていない。腹が立つ。仕方なく車に戻り、再び仮眠を取ることに。

今は雨が止んでいるけど、いつ降り出すか分からないので念のため携帯で天気予報を見てみると、日中は蒸し暑く夜は大雨になる恐れがあるらしい。途中のコンビニで買ったレインジャケットを持っていこうか悩んだ末、邪魔なので置いたまま、10時頃車を出る。

会場内は予想通り年齢層が高い。出演者の渋さから「おっさんフェス」と言われていたけど、まさにそんな感じ。Tシャツは関係ないAC/DCやらツェッペリンやら様々だけど、半分はKISS。そんな中、1人でdetroit7のTシャツを着ている女の子とすれ違う。detroit7好きとして、この明らかに孤立した状況に密かに心の中でエールを送った。

ひとまず会場全体を見ようと、サーキット外側に作られた一番大きなモビリタステージの横から、地下通路を抜けサーキット内側のスクウェアステージへ。この通路は長い階段を歩かされるので無駄に疲れる。試しに来たことを大きく後悔しつつ、1発目目当てのdetroit7が出るワープドステージへ移動。

ワープドステージへ行く通路は異常に狭い。丸太で作られた幅2mにも満たない階段を下り、さらに進んだ1番奥の忘れられた駐車場みたいなとこにワープドステージはある。開演10分前のこのステージで、私は信じられない光景を目にすることとなる。

分かりずらいかもしれないのでアップにしてみよう。

奇跡の客ひとり。さっきのdetroit7Tシャツを着た子だ。

実際には後ろの方にあと2人座ってたんだけど、前に行く気はないらしい。当然だ。この状況ではよっぽどファンでない限り正直行きずらい。目の前で、たった1人で戦おうとしている挑戦者を同志として放っとくわけにはいかないので、隣りに言って声をかける。

東京から来たキョウコちゃんは、洋楽を全然知らないくせにdetroit7目当てで辺鄙な地で開催される海外アーティストばかりのフェスにわざわざ来てしまうロックな子だ。多分detroit7を見る客は少ないから前の方で見れるだろうという鋭い予想で来たようだけど、ここまで少ない事は誰にも予想できなかっただろう。

ステージ上では、ボーカル兼ギターの菜花さんが裸足でセッティング中。彼女はいつも裸足らしいけど、今回は雨で床が濡れてるため、裸足は危険だから駄目だみたいなことをスタッフに注意されてた。でも本人は靴は嫌らしいので、しかたなく足下にビニールシートを敷かれることに。そのサイズ、およそ1m四方。どう考えてもそれでは狭い。

そうこうしている間にも客は増えていって、かぶりつきの人数が辛うじて両手の指では足りないくらいになってきた。後ろにもいくらか気配を感じるくらいになった頃、ステージスタート。

detroit7のステージは以前から見てみたいと思っていたんだけど、期待を裏切らず格好良かった。3ピースでドラムとギターボーカルが女性だけど音はパワフル。特にボーカル菜花さんの声はいい。

2曲目のあたりから雨が降り出し、よりにもよってミディアムテンポの曲の時に雨足が1番強くなる。ステージ上は、演者の足下のモニターあたりまで濡れてしまっているけど、裸足の菜花さんはスピーカーの前まで出てきて演奏。足元のビニールシート意味なし!

ひとつ不満があるとすれば、途中でやった魔法使いサリーの主題歌をロックアレンジしたカバー。リフが格好良かったけど、何かこう、しっくり来なかった。

ステージ終了後すぐに後ろを向くと、そこそこ人数は集まっていた事が発覚。音に引き寄せられた人もいたんじゃないでしょうか。まぁ、この環境を考えたらいい方なんじゃないの?

チチブリン

detroit7のTシャツが欲しかったので、キョウコちゃんと共に物販へ。彼女が既に着ていた新作だというTシャツが一番格好良かったので購入。雨がさらに強くなりそうな気配があったので、レインジャケットを取りに2人で一旦車へ戻ることに。結局彼女とは、この後1日を共に行動する事となった。今までフェスでは単独行動しか経験のない私の、初パートナーである。

車に戻る途中で雨足は弱まっていき、車に着く頃には霧雨程度になった。嫌がらせだろうか。そうは言っても、今後の事を考えると雨具はあった方がいいと思たので、とりあえず短パンのポケットにレインジャケットを押し込み、ついでにTシャツを着替える事に。

深い考えもなく、ただ買ったから着替えたんだけど、端から見たら完全にペアルックだ。ペアルックなんて日常生活では確実にあり得ない状況だけど、ライブ会場では特に問題ないでしょう。

着替えを終え、さっさと会場に戻る。この時、今まで持ってた手拭いを車内に置き忘れた事を、後で悔やむ事になるとは思いもしなかった。

会場に戻るとスクウェアステージの方へ行き、ひとまず腹ごしらえ。飲食エリアのテーブルが全部埋まっていたので、キョウコちゃんが昨日100円ショップで急遽買ったというビニールシートを広げてそこに座る事に。シートの柄はキューティーハニー。29才の男性にキィーティーハニーはセーフだろうか?アウトだろうか?アレなんだろうか? 心の中で自問自答しながら腰を下ろした。

白いご飯に卵焼きをのせ、トマトソースを掛けただけの斬新なオムライスを平らげて一休みしていると、スクウェアステージでTHE CLICK FIVEの演奏がスタート。

去年デビューしたアメリカの5人組バンド。悪くはない。ビジュアル要素も含めティーンに人気って感じ。途中コール&レスポンスの後「I need help! Sing with me!」つって客に歌わせようとしてたけど、歌えるほどコアなファンは殆どいないようで、フンフフ~ンみたいな感じになったのが、ちょっと切なかった。

終了後、人のはけた休憩エリアに戻り椅子に腰を下ろす。1人で行動してると自分のペースでああちこちフラフラするので、合間に休憩は挟むものの多少せせこましい感じがあるんだけど、パートナーがいると休憩時間がやけにのんびりまったりと感じる。たまにはこういうのも悪くない。

ステージではMORNINGWOODの演奏が始まっていた。暫く席に残りまったりと過ごしていたけど、なかなか楽しそうな音だったので途中からステージの方へ向かう。

その途中、ROCK IN JAPAN FES総合プロデューサーの渋谷陽一氏を発見。敵情視察なんだろうか。いや、ただ招待されただけだろう。RIJFとウドーでは客層も違うし、はっきり言って敵ではない。

MORNINGWOODは、ボーカルが女性の4人組。小太りなボーカルはパワーがあるし、音も小気味よく悪くない。「Next song is very very slow song.」と言って始まった曲は、いきなり16ビート。それに合わせて、小太りなボーカルがヘッドバンキングならぬボディーシェイキング。チキンラーメンのような髪と、はち切れんばかりの巨乳を豪快に揺らす揺らす。大きめに開いた胸元から片乳出るんじゃないかと少しハラハラする。

終盤、ボーカルがステージ下に下りたかと思うと、なんと柵を乗り越えて客側のエリアに。ここで注目すべきは、客側エリアに普通に下りれるだけのスペースがあったということ。今更いうまでもないけど、このフェス非常に客が少ないのだ。これだけの規模のフェスである事を考えると、ガラガラと言っても過言ではない。

開催前は内容を疑問視する声やバカにする声が多く上がっていたけれど、こんなにゆったりと楽しめるフェスは、見る側からしたらとても貴重で大いに喜ばしい。主催者側は笑えないだろうけど。

ステージが終わって再び休憩エリアへ。気がつくと霧で辺り一面真っ白になっていた。これだけ濃いとステージから後ろの方が見えず、客がいない事がバレないんじゃないだろうか? そう考えると、この霧はウドーの演出とさえ思えてくる。

中学生

洋楽はさっぱりのキョウコちゃんが「多分女性だ」とういうザックリした理由でTHE PUSSY CAT DOLLSを見てみたいというので、暫く休憩した後メインのモビリタステージへ移動。

移動中、こっちを指差して「あー!」という顔をしている女性に遭遇。ボーッとしていたので最初はなんだか分からなかったけど、detroit7のドラムの女性だった。隣にはベーシストもいる。恐らくKISSのTシャツだらけの中で、二人でdetroit7Tシャツ着ていたから反応したんだと思うけど、detroit7のライブ常連だというキョウコちゃんは、私の事分かったからだと言い張る。真相は謎のまま、とりあえず握手してもらってモビリタステージへ。

メインステージ側には、あちこちにKISSメイクをしている人が出没。スタンドでメイクをしていたおっさんは、なかなかうまくいかないようで、完璧にポールのメイクをした子供にお父さん頑張れと言われていた。KISSのメイクで子供に励まされる父親というのも、いかがなものか。

THE PUSSY CAT DOLLSは女性6人組のダンスユニット。いかにもアメリカ的。セクシーな衣装で出だしから腰を振りまくっていた。一見ビジュアルだけで売ってそうな気がするけど、歌もうまくバカには出来なかった。メインボーカルは、多分そのうち脱退してソロでやっていくんじゃなかろうか。

客席は彼女たちのセクシーなダンスに盛り上がる。隣では、顔にKISSメイクをして、裸の上半身にも一生消えないメイクをしている厳ついお兄さん達が、Oh yeah! だとか I love you! だとか叫び「今俺の方見た!」とか「いや絶対俺だ!」とか異常にはしゃいでいる。完全に中学生のノリだ。どうでもいいが「ビヨンセ!」は違うだろ。

途中メインボーカルの子がMCで「チョーアツイ!」と言い出す。天気は悪いし客も少ないので、気のせいだと思ったけど、その後何回も「チョーアツイ!」と言っている。何事だと思ったらドナ・サマーのホットスタッフのカバーを披露。そういうことか。客の少なさに、やけになっているのかと思った。

ステージ終盤。ふと気がつくと、さっきまで異常にはしゃいでいたKISSメイクの人達が素になって普通に見ていた。棒立ちである。疲れてしまったのだろうか。その姿が妙に切ない。

ステージが終わって後ろへ下がると、そのKISSの人達が、地下道入り口の上に登って叫んでいた。

裏の傾斜を這い上がったらしい。右の人は角に座っているけど、左の人はしがみつくような状態のままだった。高くてビビったんだろうか。やはり切ない。

あぁ、青春の流血

続いてモビリタステージに登場したのは、ALICE IN CHAINS。2004年にボーカルが薬物中毒で死亡。その後新しいボーカルを迎えて13年ぶりの来日ということらしい。前のボーカルがどんなだったか知らないけど、今回のボーカルは個人的には好きだった。なかなかいい声してる。

途中マイクスタンドが壊れ、バンドがダークでヘビーな音を鳴らしてる前で、ボーカルがさりげなくスタンドの土台に軸をねじ込むという地味な作業をしている姿が印象的だった。

その後、ALICE IN CHAINSを途中で抜け出し、自分の中で本日メインのGODSMACKを見る為にスクウェアステージへ。

スクウェアステージでは、まだひとつ前のPORCUPINE TREEが演奏中だったので、後ろの方に腰を下ろして一休み。のんびりと周りを見回していると、またしても驚きの光景が。

寝そべる女性と柴犬2匹。気になったので家に帰ってから調べてみたら、フジロックやサマソニ等、他のフェスのサイトには明記してあるペット禁止の文句がウドーの場合どこにもない。ペットOKのフェスなんて初めて見た。どんだけ自由なんだ。

密かに犬に注目が集まる中、GODSMACKスタート。正直、日本で名前を聞く事はないけど、アルバムセールス全米1位にもなり、オズフェストやウッドストック’99にも出演したその実力は伊達じゃなかった。とにかくカッコいい。昨日の大阪が抜けてないらしく、思いっきり「オオサカー!」と叫んで、笑いながら「Oh sorry shit!」と丁寧に謝るお茶目な場面もあって好感が持てる。ちなみに、その後はトーキョー!と言っていたけど、残念なことにここは静岡だ。

バンドはカッコいいんだけど客がおとなしい。前でKISSTシャツを着た2人組が軽く盛り上がっている程度。恐らく私も含め、あそこにいた人達はきっかけを待っていたのだろう。始まるきっかけを。

そんな時、後ろから突然乱入してきたデカい外人が起爆剤となり、一気に直径3mほどの空間が出来て、激しいモッシュがスタート。待ってましたとばかりに参戦。ステージ目の前でこんな広くスペースが取るなんて、他のフェスでは考えられない。こんな伸び伸びして楽しいモッシュは初めて。

一旦音も落ち着き暫くした後、再び始まったモッシュは、さっきよりも激しさを増していた。そんな中で鼻を強打。嫌な予感をさせつつ、一旦輪を抜けて鼻を触ってみると、その手にはしっかりと赤いものが。鼻血なんて何年ぶりだろうか。

手拭いを車中に置き忘れたため手で血を拭っていたんだけど止まる気配はない。隣ではバンドと共に盛り上がる集団。こんな楽しい時に鼻血て……。

鼻血自体は大した事なかったけど、他の人に血を付けたら悪いと思って、涙を呑んで一旦退場。急いでトイレに駆け込むと血のりを洗い流して、アドレナリンパワーでなんとか止血。そうしている間にステージから聞こえてくる音は、明かに最高潮の盛り上がり。

ダッシュでステージに戻ったけど、その時には既に落ち着いてしまっていた。その間のモッシュの激しさを現すかのごとく、前にいる男性はズボンがずり下がり、パンツが10分の9出ている。……わざとだろうか?

最後にもうひと盛り上がりあったけど、再度出血すると困るので隅っこで、ちょこっと参加。鼻血さえなければ最高のステージだった。

歌うギター

1日中空が曇って暗かったせいで、時間の感覚が麻痺している。早くもスクウェアステージは、STEVE VAIを残すのみとなった。

その前に再び休憩エリアへ。席が埋まっていたので、再びキューティーハニーシート登場。何か食べ物買ってくると屋台の方に行くキョウコちゃんを見送って、その場で休憩。軽い気持ちで残るとは言ったものの、気がつくとそこにあったのは、29才男性が1人でキューティーハニーのピンクのビニールシートに座っているという現実。

頭の中で「アウトー!」という言葉が響く。ひたすら遠くを見つめ耐える時間は永遠だ。暫くして戻ってきた彼女の笑顔が輝いて見えた。

ステージからのドラムの音が響き歓声が上がる。ヴァイのステージが始まるようだ。疲れきってもう動けないというキョウコちゃんを残しステージへ。スティーヴ・ヴァイのステージなのに、このタイミングで行っても前列まで行けてしまう、この空き具合。奇跡である。

今回のメンバーには、ベースでビリー・シーンが参加している。のっけから壮絶テクの連発で、かつて一緒にやっていた事もあるビリーとのバトルも白熱。凄すぎて何がどうなっているのか、どうやってあんな音を出しているのか、さっぱり分からない。他のメンバーも当然の事ながら実力者で、特にドラムは気持ちいい音鳴らしてて、スティーヴ対ドラムのバトルは聴き応えがあった。

それにしてもこの人は、ホント楽しそうにプレイする。スティーヴ・ヴァイって人は硬派でストイックな人だと勝手に思っていたんだけど、とてもお茶目な人だった。歯でギターを弾く人は見た事あるけど、舌で弾く人を見たのは初めてだ。こういうのは、多分ギターを弾いているとは言わないんだと思う。「ギターが歌う」というのがどういうことなのかを、はっきり理解させられた。

スティーヴがビリーの後ろから手を回してベースを弾き、ビリーが手を後ろに回してギターを弾いてみたり、サポートギタリスト2人とスティーヴ、ビリーの4人が並び、それぞれが隣の人の弦を押さえて弾いてみたり。スティーヴがサポートギタリストとギターバトルを繰り広げてる時に、それを見ながらステージ隅でビリーともう一人のギタリストが「こんな押さえ方どうだい?」って感じで話しながら演奏してたりと、全員ステージを楽しんでる感じが凄く伝わってきて、見てる方も非常に楽しいステージ。

途中、雨でショートしたのかスティーヴのギターが鳴らなくなるハプニングがあってヒヤリとしたけど、なんとかすぐに回復。その後、スティーヴが一旦引っ込んでビリーのソロの後、再びスティーヴが出てきた時にも音が鳴らない。みんなが「またか!」と焦らされたのも束の間、今度はシールドをちゃんと差してなかっただけだった。すぐに気づいて、焦った~って感じで肩をすくめながら、袖のスタッフの方を見て笑う姿が可愛かった。

頭からケツまで見所満載。今回のベストステージ決定です。

やりたい放題

ヴァイ終了後、アンコールを期待したんだけど、客がKISSを見るためにどんどんはけて行ってしまったので、仕方なくモビリタステージへ移動。予定では既に始まっているはずなのに、モビリタの方から演奏は全く聞こえてこない。どうやら押しているみたい。おかげでKISSを頭から見れる。

地下道を抜けた先のモビリタステージの上には、巨大なセットが組んであった。4段組のアンプ雛壇。その中段に設置させられたドラムセット。中央に掲げられた巨大な電飾KISSロゴ。セッティングのせいで遅れたのは見え見えだ。それにしても人が少ない。メインのKISSですら、その気になれば普通に前までいけるくらいの空き具合。しかも運の悪いことに霧がスッキリ晴れている。客がいないのがバレバレである。

到着してすぐにスタート。最後だから後ろでゆったり見ようと思ったけど、本物の登場に思わず中程まで足を進める。今回は日本初のKISS野外ライブということらしい。どちらにしろ私は初めて見るのだから関係ないけど。

初っぱなはデトロイト・ロック・シティ。イントロにあわせて早速花火炸裂。野外ということは屋内では出来ない演出がやり放題だということ。それを誇示するかのように、ステージの雛壇からだけでなく、ステージ裏の左右の櫓からも豪快に花火が弾ける。空気が裂けるかのような破裂音。出し惜しみは無しだ。

高さ3mはあろうかという火柱が雛壇から吹き出した時には、50m程離れているにもかかわらず周囲の空気が暖かくなった。もの凄い迫力。あんなものが真後ろで吹き出していたら火傷するんじゃなかろうか。

演出は凄いけど、肝心のバンドの音に迫力が欠ける。音が小さいのだ。後から聞いたんだけど、プッシーキャットドールの後、雨でスピーカーが死んだらしい。今まで音響が良かっただけに尚更残念。

ジーン・シモンズの火吹きも飛び出し、これからというところで、家の遠いキョウコちゃんは残念ながら帰路につくことに。彼女のおかげで新鮮なフェスを楽しむことが出来た。彼女と握手して別れると再びステージへ顔を向けた。

中盤、ジーン・シモンズがワイヤーをつけたかと思うとステージの天辺までフライング。ステージ自体の高さも含めると地上20mはあろうかという照明の上に着地。見ると照明の上にしっかりマイクスタンドまで用意してある。地上20mで悪魔のようなメイクそして客を煽る彼は、既に50才を過ぎている。いい年して何やってんだとはこのことか。

KISSの勢いはそれだけでは止まらない。続いてはステージ後方からPAテントの方へ伸びた不自然なワイヤーを使い、ポール・スタンレーが客上空をフライング。PAテント前に立てられた高さ3m程の櫓の上に降り立つ。そんなとこまで来たら、客がいないことが余計露骨に分かってしまうではないか。心なしかポールのテンションも低めに感じるのは気のせいだろうか。

途中、ポールがアカペラで「上を向いて歩こう」を歌うという、どうでもいい日本向けサービスも挟みつつ、最後はピーター・クリスが4本のワイヤーに吊られ、ドラムセットごとフライング。土台全面から回転しながら吹き出す花火。花火の煙で完全に隠れるドラムセットとピーター。飛んだ意味なし!

アンコールでは、ステージ前4カ所から豪快に吹き出し続ける炭ガスと紙吹雪でステージは全く見えず。オーラスは再びドラムセット上昇。ジーンとエリックも、ステージ左右のリフトに乗って地上10m程まで上昇。ステージ中央に残ったピータが、溜めに溜めた末、ギターを床に叩き付け破壊。次々炸裂する花火。吹き出す炎とスモーク。一体このステージにいくら掛かっているんだ!

エピローグ

全ステージ終了後、花火スペクタクルと銘打って「10分間にわたり花火とクラシック音楽の華麗な共演が満天の星空を焦がす」との事だったけど、見事に復活した濃霧のせいで花火全く見えず。というかステージが押したせいで、皆家路に急ぎ一目散に退散していったので、花火の方を見ている人など殆どいない。無駄以外の言葉が何ひとつ思い浮かばない。多分この状況は、英語に訳してもフランス語に訳しても「無駄」だろう。

来る前は乗り気ではなかったフェスだけど、気がつくと満喫している自分がいた。これだけの大物が出ておきながら混雑とは無縁のフェス。会場が全面アスファルトだったことを考えると、生憎の天候もあれで良かった気がする。もしカンカン照りだったら暑過ぎてシャレにならなかっただろう。

見る側としてはとても贅沢なフェス。これを来年もやる勇気と財力がウドーにあるかは分からないけど、個人的には是非やってほしい。とりあえず、もう少しセンスのあるタイムテーブルを組んでいただいて、是非やりましょうよ。ウドーさん。

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